『触る。知る。』
木漏れ日が、新緑の鮮やかな葉を透かして降っていた。
ゼルネアスは柔らかな草地に腰を下ろし、四肢をゆったりと折り畳んでいる。
彼女から伸びた蒼白い根は大地を深く抱き、
それを通じて、森全体が穏やかに呼吸していた。
根から大地の記憶を読み取り、書を繰るように、あらゆる知へ触れていく。
その時、大きな鳥の影が空を覆った。
彼――イベルタルは、彼女の根を踏まぬよう細心の注意を払いながら、ゆっくりと側に降り立つ。
そして、口に咥えていた白い花を、彼女の足元へそっと置いた。
「ゼルネアスさん。見て、綺麗な花見つけたんだ」
ゼルネアスは、ゆっくりと瞼を持ち上げた。
瞳に映るのは、小さな花弁と、期待に満ちた澄んだ青空のような目。
「……また懲りずに、花を摘んできたのですか」
やや面倒そうにそう口にしながらも、その声に棘はない。
首を下ろし、鼻先で愛でるように小さな花に触れた。
甘やかな若い香りがした。
「……ねえ。ゼルネアスさん」
その呼びかけに、応えることはなかった。
静かに目を閉じ、地に張っていた根を、彼の翼に触れるよう優しく這わせる。
体温、鼓動、息遣い。
相手を識るために根を這わせることが、彼女なりの応えであった。
降り注ぐ光の中、そこには声も音もない。
ただ二人の穏やかな呼吸だけが、静かに重なっていた。
イベルタルは彼女の隣で、幸せそうに目を閉じた。